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 栄枯盛衰 その5: 地球の栄枯盛衰 2

「宇宙の栄枯盛衰」だけでなく、「地球の栄枯盛衰」の続編をという声もあるので、それに答えて、前回も触れた「ワンダフル・ライフ」を取り上げてみたい。

「ワンダフル・ライフ」のサブタイトルは、「バージェス頁岩(the Burgess Shale)と生物進化の物語」といい、作者はスティーブン・ジェイ・グールド(Stephen Jay Gould)である・・ちなみに、「バージェス頁岩」はカナダのロッキー山脈に在る、文字通り本のページのような岩石地帯で、昔から「化石の宝庫」として知られていた。

 

今から5億7千万年前のカンブリア紀に起こった「生命の爆発」の謎をテーマとするこの本のタイトルを、フランク・キャプラ監督の名作「素晴らしき哉、人生!(It’s a wonderful life!)」としたことについて、著者は映画のシーンの中の次のような台詞を引用している・・「ジョージ」は映画の主人公であり、「天使」はジョージの守護天使である。

「機知に富んだ天使はジョージの問題に決着をつけ、偶発性という原則をこう説明する。『奇妙だとは思わないか。一つ一つの人生は、こんなにもたくさんの人生とかかわりあっているんだよ。その人がそこに存在しなければ、その人はぽっかりとあいた大きな穴を残すんじゃないかな。・・・・ジョージ、ごらんのとおり君は、すばらしい人生(ワンダフル・ライフ)を送ってきたんだよ』・・バージェス頁岩が語りかけるメッセージがもつ魅惑とその変革力(初期における異質性のとほうもない爆発と、それに続く、おそらくはほとんど運まかせの悲運多数死)は、生命がどの方向に向かうかを決めるのは主として歴史であるというその主張にある」

「カンブリア紀の爆発」とは、わずか数百万年の間にたくさんの種類の多細胞生物が、まるで、「雨後の竹の子」のごとく出現した現象を言う・・現在見られる全ての生物の基本形がこの時に出揃ったといわれているが、そのような「爆発」が起こった原因については今もなお謎である。

古生物学に詳しい人なら常識なのかもしれないが、まったくの素人である僕にとっては、本の中頃から最後まで延々と繰り広げられる「生命の爆発の謎」よりはむしろ、本の冒頭から紐解かれていく「生命進化についての常識の誤り」の話がまずもって興味深かった。

生命は一つの「種」から発生して、次々に「種」を増やしながら、つまり逆さまの樹状を描きながら、現在まで進化してきており、その過程で、優れた「種」は生き残ってさらに進化を続け、劣った「種」は生存競争に負けて絶滅してしまう・・というのが通常の進化論の話であり、僕たち「ホモサピエンス」は進化の逆さツリーの頂点に立っている、ということになっている。

5億7先年も前のカンブリア紀に可能と思われる殆どの生命の基本形が現れ、ごくわずかだけ生き残った「種」が、その後は基本形を大きく変えることなく発展をしてきたという話には度肝を抜かれ、「これからの人生で、いくら頑張ってみても、たかが知れているんじゃないかな」という、ちょっとした厭世的な気分に襲われたのも事実である。

という前触れは別にして、バージェス頁岩で発見された多くの化石群を前にして繰り広げられてきた「謎解き」の話は非常に興味深い・・既存の進化論の常識に囚われて化石を「観察・分析」することの怖さ、一度は学界の定説として確立された理論に再び挑戦していく契機を与える「ささいな発見」に着目する新鮮な感性の素晴らしさが、あますところなく提示されている。

「地球の栄枯盛衰」に思いをめぐらしていくのに、格好のインスピレーションを与えてくれる一冊である。

添付した図版は本書に収録されているもので、「通説として流布している進化論」の常識の誤りをシンボライズしたものである。

(2005/12/1)
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