今年の始めに「ネアンデルタール人についてのシンポジウム」が開催された。
さまざまな研究発表の中で、出席者の興味深い関心を呼んだ最大のトピックスは、「ホモサピエンスとネアンデルタール人は果たしてやったのだろうか?」(英語では、”Did
they do it?”)という設問だった。
ヨーロッパや西アジアの各地で、ネアンデルタールとホモサピエンス(現世の人類)はオーバーラップして存在しており、一般に良く考えられがちな、ネアンデルタールが絶滅してからホモサピエンスが登場したのでもなければ、新しく登場したホモサピエンスが彼らの「優れた」知能を使ってネアンデルタールを撲滅したわけでもないらしい。
ヨルダン川渓谷でも、特に西岸地域で、ネアンデルタールの骨が沢山発見されている。
この地域での、ネアンデルタールの最後の骨は約2万8千年前のもので、一方、ホモサピエンスのこの地域への最初の登場は約10万年前という証拠がある。
つまり、先住者のネアンデルタールと新参者のホモサピエンスは、この狭い谷間に約7万2千年も一緒に暮らしていたことになる。
約2万8千年前のこの地域は旧石器時代に入っており、その頃のものと思われる石器が少なからず見つかっている。
これらの石器は、考古学では通常、ホモサピエンスが作ったものとして取り扱われているが、ネアンデルタールはその製作に一切関与しなかったのだろうか?
そんなに遠くない所で、ホモサピエンス達が便利そうに使っているのを、ただ遠巻きにして眺めているだけで、何の関心も示さなかったのだろうか?
僕にはどうもそうは思えないのだが、ネアンデルタールが石器を作ったという確かな証拠も見つかっていない現在では、想像することはできても、断定することはできない。
また、証拠が見つかったとしたら、考古学や人類文明史は根底から書き換えを迫られる一大事件になるだろう。
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