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 思い込み その2: 季節

最近、エジプトのギザに新しく建設される「大エジプト博物館」・・カイロにある1902年開館の「エジプト博物館(通称:カイロ博物館)」に対して「ギザ博物館」と、プロジェクトが始まった頃は呼ばれていた・・の展示計画(正確には計画の準備)に携わることになり、例によって、俄か漬けでエジプトの考古学(通称:エジプト学)の猛勉強を始めた。

エジプト学の勉強をし始めて最初に浮かんできた疑問は、「古王朝・中王朝・新王朝と続き、かの有名なクレオパトラで途絶える、エジプトの王朝や王者達の物語が、ほんの約5000年前からしか始まらないのだろう?」ということであった。

約20万年に及ぶタイムスパンをカバーし、約2万年前からの歴史に焦点をあてている「ヨルダン国立博物館」の視点からエジプト史を眺めると、「何と新しい…」ということになってしまう。
約5千年前というと、青銅器時代が始まった頃で、ヨルダンを初めとする中近東史では、もはや「古いなー」という感想は口をついてこないのである。

 

さらに湧いてきたもう一つの疑問は、「突如として現れてきた王朝が、ピラミッドやスフィンクスに代表される巨大なモニュメント群をどのようにして築くことが出来たのだろう?現代の先端技術を駆使してもかなり難しいと言われている、正確な測量技術や土木技術を何時、何処で習得したのだろうか、誰かに教わったのか(とすれば、誰が教えたのか)、それとも自分達で独自に開発したのだろうか?」ということであった。

二番目の質問については、まだまだ僕自身の勉強の仕方が足りず(未だ、たったの一ヶ月強)、とっくの昔に研究・解明されていて、エジプト学者の間では誰でも知っている常識なのかもしれないけど、最初の質問については、はっきりと説明してくれる人には未だ会っていなかった。

かの有名な「ルーシー」よりも遥かに古いのではと騒がれている「約700万年前の骨のかけら・・おそらくヒトの」が明らかにしているように、人類の遠い祖先は東アフリカで誕生し、ナイル川を遡って北上し、死海のあるヨルダン渓谷を通過して、西へ東へと拡散していった・・というのが、現在広く受け入れられている、人類の誕生・拡散の歴史に関する、一般的な学説である。

改良品種ではなく野生品種を栽培する原始農業が人類の歴史で最初に発達したのは、約4万年前のヨルダン川沿いということになっており、その痕跡も数箇所で発見されている。
僕が実際に訪れて手に水を汲んでもみたヨルダン川は、東京の都心を流れる「神田川」位のもので、対岸のイスラエルには子供でも石を投げることができ(絶対にしてはいけないこと!!)、「これが、あの黒人霊歌でも良く歌われているヨルダン川?聖書や霊歌では、イエスがヨルダン川を渡るということをすごく大切に位置づけていて、シーザーのルビコン川どころの扱いではないのに…」と素直に驚いてしまった程なのである。

エジプトの古代文明の時代から現代まで、エジプトを養ってきた食糧生産基地である肥沃なナイル川の渓谷やデルタ地帯・・ナイル川がヨルダン川より北側に位置していたのなら分らなくもないが、東アフリカから北上する際に、ヨルダン川より遥か手前にあり、ヨルダン川より遥かに豊かな水量が流れ、肥沃な土地を抱えているのに、人類は何故最初にナイル川で農業を始めなかったのだろう?
何故、ヨルダン川渓谷より遥かに遅れてしまったのだろう?遺跡や痕跡が見つかっていないだけなのだろうか?

疑問は日々深まっていくばかりだった。

先日、「添削メール」で紹介した、国立博物館展示計画のパートナー、ハイリーヤ女史と洒落たカフェでビールを楽しみながら尋ねたところ、「気候が現代とは大幅に違っていて、農業が開始された頃は、ナイル川の一帯は雨が多すぎて農業には不向きで、逆にヨルダン川一帯は今より雨が程よく多く、現代より遥かに農業に適していたからではないか?考古学で一番大切なことの一つは、それぞれの時代の分析をする時、まず当時の気候の状態を調べ、現代の常識を捨て去ることにある」と喝破してくれた。

今の赤道地帯が北極や南極であったり、地磁気も頻繁に逆転してきている、とか言った、地質学的年代感覚でなくても、かってサハラは青々とした森で、沢山の川が流れていたとか、アフリカ中央部の気候変動で森が草原に変わってきたのでサルの一部が草原で立ち上がり我々の祖先になったとか、氷河期には水位が大幅に下がったので、大陸を隔てていた海峡が繋がり、我々の祖先たちがアメリカ大陸やオーストラリアに渡ったとか、人類史的年代感覚で「知識」として理解してはいる、が…

実際の生活場面では、ついつい私達が生活している今の環境感覚で咄嗟に判断してしまう。

「季節は巡るという」例えも、「思い込み」の一例かもしれない。

(2005/8/1)
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